性交時頭痛について 岩田健太郎訳「ナラティブとエビデンスの間」

 

性交時頭痛という病名があるが、この命名は愚の骨頂だと思う。

患者の生活をより良くするために医療はあるべきであって、
分類学的な位置を表すだけの病名に臨床上の価値はない。

理解できないものに対して人間が示す本能的な拒否感を考慮すれば、
むしろ医療の妨げではないか。

 

「セックスすると頭が痛くなるんです」と訴える患者に、
「あぁ、それは“セックスすると頭痛くなる病”ですね。」と医者がもし答えた時の患者の気持ちを考えれば問題の所在は明確になるだろう。

 

抗精神病薬が登場する以前の、
古典時代の精神医学者であったら「性交時頭痛」などと言わず、
「野生の目覚め」とか「屹立するパトス」などと名付けたに違いないが、

この病名の方が患者たちは、
自分たちの割れるような頭の痛みに、ライフ・ストーリィ上の意味付けを与えやすいのではないだろうか。

 

熟考すべき事柄である。

 

 

 

ナラティブとエビデンスの間 -括弧付きの、立ち現れる、条件次第の、文脈依存的な医療