精神医学と恋愛、宗教的体験について            笠原嘉「全体の科学のために」

 

以下引用

 

「まれならず分裂病の発病状況においてみられる恋愛(失恋ではない)から、
われわれは彼らにとっての恋愛の意味をつぎのように知る。

ある人にとって恋愛は両親からの、
あるいは少年的世代からの『門出』であるにとどまらず、
恋愛以前の自己自身からの訣別的な『跳躍』であり、性を初めとするもろもろの新しい主題の侵入の脅威にさらされる。

しかしある者にとっては恋愛は日常性、世俗性、公開性への興味を放棄させ、
直接的・一回的な存在様式へと『没頭』することを命じるし、
またある者にとっては、
むしろ恋愛とは、愛するものとの合一であるといわれる反面において、
他者の介入を断固拒否する、半ば自閉的な世界の構成であるがゆえにその病者にとってはなはだ危機的であること、をわれわれは教えられる。

しかも恋愛は決して休息を彼らに与えず、
たてつづけに渇望に油を注ぎ、どこへかと限りなく超越し上昇することを促し、
きわめてしばしば生命の神秘に開眼させるという型で、
宗教的体験への移行を見せることは、臨床上われわれのしばしば遭遇するところである。」

 

引用おわり

 

 

神話的なものを医学の実践から切り離したことは、
多くの命を救った非常に大きな一歩だった。
その峠を越えた後でなお、このような物語が生き残っていることは、
これこそ私たちが誇りとするべき出来事のように思う。

 

 

「全体の科学」のために (笠原嘉臨床論集)