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薦められて読む本は大体こんな感じだ 遠藤周作「海と毒薬」

 

 

戦時中に、
日本軍と九州大学がアメリカ軍の捕虜を生きたまま解剖した事件があった。
(軍医は取り出した肝臓を「景気づけに」食べさせようとしたらしい、若手将校に。)

 


武満徹 《微風》 / Toru Takemitsu 《Breeze》 - YouTube

 


解剖に参加した医師二人と看護婦の計3人の視点から、
事件の前後が描かれる。

 

 

異常な事件だが、そこに居合わせた人間が異常な訳ではなかった、

ということを遠藤周作は描きたかったのかもしれない。

「普通の」人間こそ、戦争に覆われた時には恐ろしい罪悪を犯してしまうものだ、ということを。


しかしそれなら、

2人の医師の「小さいころから優等生だった。本当の罪悪感がどんなものか知りたかった」とか

「戦争に対しての医学の無力さに虚無感が募って、教授の強い言葉を断れなかった」とか

看護婦の「子供を産めない身体になった空しさが募って」というのは、

生きた人間を切り裂くことの理由としてあまりに矮小ではないか。

 

「神というものはあるのかなあ。なんや、まあヘンな話やけど、こう、人間は自分を押し流すものから―運命というんやろうが、どうしても逃れられんやろ。そういうものを神と呼ぶならばや。」


と作者は主人公に語らせているが、一人当たり40ページ程度の人生記を書いたくらいで、人を殺すことような運命、それから逃れることができない状況なんて表せない筈だ。ずいぶん安い神を信仰していたんだな、と感じる。

 


戦争という非人間的な時代には、という定型文さえ必要なく、

ただ、倫理観の欠如した人間が複数人いた。必然的に彼らは捕虜を殺した、という当然の結果しか見えなかった。

 

世の因果律を教え込む目的で、中学生の課題図書には最適かもしれない。

 

 

 

 

海と毒薬 (新潮文庫)