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谷崎と萌えることの美学 谷崎純一郎「春琴抄」

 


萌える、というような感じ方を最初に書いたのは谷崎だと思う。

 

つまり光源氏のような、

顔も声も綺麗で、趣味も良くて、所作にいつも品があって、というような満点人間への賞賛ではなく、

姿形が美しくて、それに加えて人とちょっとだけ違ったところがある、という対象への恋慕。(前者の要件は紙面の都合でオミットされる)

 

盲目の美女、加えて天性の三味線弾きであり、同時に稽古になると弟子の額を割るほどに強打するサディズム。

 

 

「男の師匠が弟子を折檻する例は多々あるけれども、女だてらに男の弟子を打ったり殴ったりしたという春琴のごときは他に類が少い、これを以て思うに幾分嗜虐性の傾向があったのではないか、稽古に事寄せて一種変態な性慾的快味を享楽していたのではないか」

 

結局この女は余りに飛び抜けた技量とその美しさのために周囲の恨みを買い、寝ている間に熱湯を浴びせられる。

変形した顔面を恥じて顔を隠すようになった女。

幼時より手曳として女に仕えていた男は、思いが昂ぶり、

「人を傷つけたいな  誰か傷つけたいな」と歌いながら

自分の両目を針で突いた。そして彼もまた光を失った。

 

だけど幸せ。

 

 

春琴抄 (新潮文庫)