読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

彼はやっぱり清楚だったのか 三島由紀夫「音楽」

 


三島由紀夫の描く主人公というと、良家の子女だとか合宿中の剣道部員だとか

暑苦しいだけであまり生産的でない人間ばかりだが、

この本に限っては精神科医という、比較的に涼しげな人種が主人公であった。
(まぁ生産性については良い勝負だと思う。)

 

 f:id:dabbut:20140531142502j:plain

 

 


幼児に兄と性的関係を結んだことで成人してから不感症を呈した女性症例を
精神分析を通して克服に導く、という筋だった。

 

特に以下のやり取りが秀逸だった。

 


「ですから…ですから、私、禿鷹なんです。死の匂いを嗅ぎつけていそいそと飛んでゆく鴉なんです。」


真っ黒な服に身を包み、紅一つつけない小保方は、そう言えば、鴉を思わせるものがあった。


「そんな風に物事をドラマチックに考えることはありませんよ。」


「いいえ、私、今度のことでわかったんです。
物事をうんと追いつめて、つきつめて、ドラマチックにしてしまわなければ、
私という女には、音楽がきこえて来ないんだって。」


「それなら、何とでもお考えなさい。
動機はどうあれ、あらわれた行為が美しければそれでいいのです。
世間の美談の何割か、慈善的行為の何割かには、性的な原因があると考えていいでしょうが、それでその行為の値打ちが下がるとは言えません。」


「まぁ、先生って皮肉屋ね。」と晴子ははじめて、疲れたような微笑をうかべた。

「でも、今、私なんだか怖いんです。とても怖いんです。どうしてだか…」

 

 

折しも自分が、笠原嘉「精神科の予診・初診・初期治療」を並行して読んでいたところで、その本には

「たとえば、小児期に父親との間に近親相姦があったと、
もしある夫人が初診でいきなり述べたとしても、それを直ちに現実とみてよいかどうか。

(中略)

こういう問題に対して一般人がみせる好奇心から医療者は脱していなければならない。(P.47)」

「医療者は、常にid:hagexの如くあるべきである。(P.108)」などとあったのには不思議な偶然(対立?)を感じた。


それでいて三島と笠原は、フロイトのStudien über Hysterieを共に参考文献として挙げていたりする。

 

 

 

音楽 (新潮文庫)