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僕、大きくなったら社会人になりたい  「コロンブス航海誌」

コロンブスの航海誌。 表向きは未知の土地を教化するため、実際にはエルサレム遠征の資金(黄金)を探すためスペイン王家が計画した遠洋探検の航海譜/提督の口述録。 船隊の提督はコロンブスだけれど、航海誌を記録しているのがラス・カサスなのが面白い。 …

平均律の謎 サリヴァン「ピアノと平均律の謎」

完璧な音律が不可能であることって、 たとえば円周率が無理数だったり 位置と運動量が同時に求められなかったりっていうのに似てると思った。 ヒトが識別できる最低の周波数差ってたぶん大したことないと思うんだけど、 聴覚生理に基づいた音律ってのはない…

「豊富な経験と高度の学識」について  津田敏秀「医学的根拠とは何か」

「医師としての長年の経験から、物質Aはガンを治すと断言する。」 「実験により、物質Bにガンを治療する成分が含まれていると判明した。」 「某町8000人を対象とした調査により、物質Cはガンを治療すると分かった。」 A,B,Cのどれが世間で最も信用を得るだろ…

BWVがいつまでもBMWに見えて困る             渡辺和彦「ラテン・クラシックの情熱」

Cuarteto Latinoamericano plays Heitor Villa-Lobos “わかりやすいメロディー、熱帯のセレナードを思わせる緩徐楽章、 陽気な歌とサンバのリズムのフィナーレ楽章。これは本当に楽しい。 カルテットがこんなにハッピーでいいんですか? ハイ、いいんです!”…

文系は陰影でも礼賛してろよ  芥川也寸志「音楽の基礎」

The Art of Fugue, BWV 1080 中学生くらいまで、楽譜というものに何か強い違和感があった。その違和感の中身をはっきりさせる言葉とやる気がなくてきっと自分には音楽が向いてないんだろう、と判断していた。 高校生になり、テンポというものは演奏者が自由…

いい話をシェアしたがる大人  モーパッサン「脂肪の塊」

田舎町ルーアンはドイツ軍の支配下に置かれた。 街から抜け出す為の馬車に7人が乗り合わせた。 上等の席には、裕福な商人夫妻、県会議員夫妻とノルマンディの伯爵夫妻。 端の席に、美しく肥満した娼婦。 雪のせいで馬車は予定から大幅に遅れ、一向に進まな…

ゆとりがない人間は何をやってもダメ            青山南 「ネットと戦争」

Amiri Baraka: Somebody Blew Up America 元は『すばる』の連載で、 アメリカ文芸の界隈で何が起きているかをリアルタイムで報告する企画だったらしい。9.11に関連する文章を中心に、補遺を加えて出版された。 2000年代前半、つまりGoogleが登場した頃、ウェ…

ストラヴィンスキーの死床

バッハ、ベートーベン、ブラームス、ワーグナー、ヒンデミットの順に各作曲家が歴史に何を打ち建てたのか、あるいは現代の音楽家に何を示すのかをフルトヴェングラー(1886-1954)が指揮者として論じる。 総じて「現代音楽」と呼ばれる一群には否定的な眼差…

発作と宗教体験/オルガスム

神経内科医が研修医に送る小噺22選 ニュートンはなぜ人間嫌いになったのか―神経内科医が語る病と「生」のドラマ 1 脳梗塞/失認 脳のある部分が機能を失うと、「失認」が生じる。例えば、そこにあるのが「これは手である」ことは理解するが、「これは自分…

最高裁は美魔女である -藤田宙靖 「最高裁回想録」  

“実際、最高裁判事になることによって、大学からの円満退職を始めとし、他の仕事からは一切手を引いて最高裁での仕事に没頭することができたのであるが、実はこの「裁判だけやって居れば良い」というのが曲者であって、それは結局、いわば懲役囚に対して「お…

「そう思い通りにならないことも能く承知してますから」   夏目漱石「道草」

「昔の因果が今でもやっぱり祟っているんだ」 こう思った彼はさすがに好い心持ちがしなかった。どっちかというと泣きたがらない質に生まれながら、時々は何故本当に泣ける人や、泣ける場合が、自分の前に出て来てくれないのかと考えるのが彼の持前であった。…

スクリーンじゃない、女優を見ろよ。             ヴァルコール「海の沈黙」

「あの素直な群衆をキリストの墓へ向って急がせた愛が、頭だけのものだったとでもいうのか?この愛によらずフランスを愛することができるか? フランスは、ほかの国と同じような国ではない。 その資格があるにせよないにせよ偶然生れ合わせたために父子代々…

飽きないニスの職人たち 石井宏「誰がバイオリンを殺したか?」

Isaac Stern playing Chaconne in D minor 誰がバイオリンを殺したか? 「部屋で弾くには音が大きすぎる」と言われていたバイオリンは、 19世紀に始まる音楽のビジネス化・大音量化の中でどう変化したか。 歴史の転回する瞬間を、 演奏家として、作曲家と…

ダンス・ダンス・ダンス  

科学が僕たちに何を与えてくれるのかという問いに対する、 ほら携帯電話はすごく便利じゃないか、とか、夜は明るいほうが楽しいじゃないか、とか そういう風に答えることは間違っていないし、医学に至っては増して実利的なところがあるけれど、 「例えばこの…

具合の悪い時は 笠原嘉「軽症うつ病」

内因性うつ、心因性うつという分類、言葉づかいや、 「こころ」と分子動態のつながりといった話には いつもどこかモヤモヤするものがあったが、 そうかこういう風に「語る」ものなのかとという 些細だけれど大きな経験をした。 読み甲斐のある本だった。 (…

33の質問、60の答え  J・ケージ短文集

John Cage: Dream - YouTube 「楽器群を会場の様々な場所に配置して行う合奏」 とても面白そうだ。 ジョン・ケージ著作選 (ちくま学芸文庫)

科学と個人の隙間で  笠原嘉「精神病」

精神病、特に統合失調症について、 心理社会的な側面から生物学的なことまで 配慮が行き届いた文章だった。 神経症 neurosis と精神病 psychosis の境界についての考察も詳しい。 柔らかい、非常に読みやすい文章で、 きっと著者は実際に素晴らしい臨床医な…

反射定数の航海に楔を寄せて  ガタリ「闘争機械」

たとえば歴史学や政治学上の現象を、 「素粒子」だとか「ニューロン」といった他領域の言葉を 用いて語る(「脱領土化」とガタリ・ドルゥーズが呼ぶ行為)という行為の効用、その意味の説明などがあった。 (そしてこのインタビューの数年後にソーカル事件を…

こんな風に分かったように書けばいいんだ多分  中村桂子「科学者が人間であること」

「ガリレイは世界はすべて数学で書かれていると言い、 それを受け継いだ近代の科学者はいつか科学が世界を語りきれると考え、 現代においてもそれを目指しています。」 この一文に代表されるように、著者がずいぶん偏った環境で科学哲学を取り込んでいるよう…

褐色の大地を、銃を担いで オーウェル「カタロニア賛歌」

スペイン内戦。 「みすぼらしい制服をまとった民兵の群れが、 体を温めようと街を歩き回っていた。 廃墟と化した壁の上のポスターがぼくの目に留まった。 昨年の日付のポスターで、しかじかの日に『六頭のハンサムな牡牛』が円形競技場で殺されることを予告…

美しい家並み、着飾った人々 F・ベーコン「ニュー・アトランティス」

壊血病の原因が分かったのは確か大航海時代の後だったと思うんだけど、 17世紀に既に「海で病気にかかった人には確実によく効く」「たくさんの真っ赤なオレンジを」 差し出すユートピア人が描かれているのは、 ベーコンに何か閃くものがあったからなのだろう…

限りなく透明に近くて ヴェイユ「根を持つこと」

生まれた場所を、 自分がずっと死ぬまで大事にすることは多分ないけれど。 それ以上にこれが書かれたような状況に自分がいつ置かれるのか。 明日だろうか。 おわり

2回目に貫かれるもの  クリストフ「ふたりの証拠」

Lou Reed & John Cale - Small Town - YouTube 主題と修辞が必要十分の関係になっていて、 文学っていうのは児童文学が至高なんだなと改めて感じた。 例えばルー・リードみたいに。 ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

遺伝子とタンパク質のスープに揉まれて  G・ウィリアムス「生物はなぜ進化するのか」

科学の知見を語るときに 目的論的な説明をすることを僕はこれまで避けてきたけれど、 この著者が言うみたいに 既知の事実を物語として配列することが、 将来の発見への手掛かりとなるっていうのも素敵だなと思った。 (それなら一層、その物語というのは概念…

歴史の人種性 レヴィ=ストロース「人種と歴史」

ペルー先住民族に魂はあるかを調査するために宣教師団は三人の青年住民をスペインに連れ帰った。青年たちはその後スペイン語を覚えなかったために魂は無いと結論された。一方で先住民たちは白人が神であるかを調べるために白人の死体を池に沈めた。その死体…

企て2 チョムスキー「生成文法の企て」

序説を除いて本の半分くらいを占めていた言語学の理論や展望については結局読み飛ばしてしまった。 彼が自分の学説に対する当時の学会について「複雑な現象に対して非常に深い原理的説明が与えられるという可能性を、多くの人達は信じていないし、また信じた…

獲得形質and 「今日のソ連」

以前読んだ「ソヴェートの市民生活」と同じ形式と内容。 ソビエト生物学についてやや詳しい記述があった。 以下引用 ... 遺伝子説の拒否 ソ連の生物学者が、遺伝説では説明できないとし、私の注意を喚起したデータは次の四つである。 (一)栄養雑種の子孫に…

だって好きなんだもん    フロム「自由からの逃走」

市民はなぜ、自分たちを抑圧するような人間を指導者に選ぶのか? アメリカに亡命した心理学者が、 「リアルタイムで」ナチスを分析した本。(41年初版) なぜ、に対する答えは、目新しいものでないと感じたけれど、 これが書かれた当時には多分、画期的だ…

昨日何食べたの、ねぇ、何食べたの? モーム「お菓子とビール」

素敵なタイトルだと思って買ってみた。 (図書券が使えない本屋もあることを知った。) 読んでいてデレク・ハートフィールドの挿話をふと思い出した。 ストーリーテラーという種族の想像力は、全くすごいものだと思う。 回想の場面が、21歳の医学生が不倫…

ところで食事は美味しかったのだろうか 丸山政夫「ソヴェートの市民生活」

1947年頃のソビエト連邦の記録。 市民の生活がユートピアのように書かれているが、 この時期には実際そうであったのか、或いはこの本がそういう意図をもって出版されたのか、 浅学のため不明。 「仕事の量と質の差、能力の差に拘らず、同一賃金を受けるとい…

騙されたいッ  D・トンプソン「すすんでダマされる人たち」

患者を薬漬けにしたほうが医者は儲かる なんて主張を聞くと、一瞬あぁそうかもなって思う。 タバコを吸っても肺がんリスクは変わらない、とか。 タバコ吸ってて健康な人たくさん知ってるしね? ワクチンは外来物だからホントは身体に悪い、とかとか。 一瞬そ…

シュレーディンガーを猫   シュレーディンガー「生命とは何か」

思うに、1944年というのがポイントで、 まだ遺伝子の本体が分かってなかった時代。 でも一方でマクロ遺伝学の知見は完成していた時代。 シュレーディンガーは 遺伝子の本体を数百の原子からなる単一の分子(非周期性結晶)と推測した。 そして、突然変異…

非積極的な平等とは  辻村みよ子「ポジティブ・アクション」

「数学科の募集人員9人のうち、4人を女性枠、5人を一般枠とします。」 っていうのを九州大学の理学部が発表して話題になったことがあった。 実際上の格差を是正するために行われるこういう行動をPA;ポジティブ・アクション(とか、アファーマティブ・アク…

序章の感想  チョムスキー「生成文法の企て」

3日くらいかけて訳者序章の"基本的問題設定"と"論点の整理"を読んだ。① 生成文法については、wikipediaに毛が生えたほどの知識しかなくて、こんな風な主張だとこれまで考えていた。「あらゆる言語に共通した、(普段は見えない)文法的な上位構造があって、…

絶世の美女  ヘッセ「シッダールタ」

シッダールタ「めいめい、自分の持っているものを与えるのです。軍人は力を与え、商人は商品を与え、教師は教えを、農民は米を、漁師は魚を与えます。」 豪商カーマスワーミ「いかにもその通り。それであなたが与えるべきものは何ですか。 あなたが学んだこ…

有無をいわずに飲み込め  オーシュ卿「眼球譚(初稿)」

この本はマジで面白いから諸氏は是非読むべき おわり

天狗のことなど  中島敦「山月記・李陵」

久しぶりに読み返した山月記も面白かったけど、 古代アッシリアを描いた「文字禍」が良かった。 「埃及人は、ある物の影を、その物の魂の一部と見做しているようだが、文字は、その影のようなものではないのか。 獅子という字は、本物の獅子の影ではないのか…

23歳の彼は  カポーティ「遠い声 遠い部屋」

書かれたものに時間を割くのは、 何か出来事をその著者がどう捉えるのかと、 どういう経緯がその思想を形成したと本人が感じているのか の二つに僕が興味あるからで、 その点で自伝というのは、とても考えることが多い。 その分読むのにいつも時間がかかる。…

ゾルゲの跡に  ゾルゲ「獄中手記」

手記とされているのに前半部分を「本人以外の誰か」が書いているところとか、 開戦前夜まず間違いないなく彼が独・日・ソ間の最重要人物だったはずなのに取調録を公安が「紛失」しているところとか、 捕まる直前までゾルゲが研究していたのは...本当のところ…

イデオロギーと科学の間に                    S・グールド「人間の測り間違い 差別の科学史」

この本の主張は、狭義には 「知能が一つの数値として計測されうるもので、かつそれは生得的に決定されて、且つ強い遺伝性がある。」... という迷信を反証することだけど、 ―こう書くと、イマドキそんなこと言うやついるのかよって感じだけど、 人種論を「科…

多分これからも長く続くもの  吉田秀和訳「音楽の歴史」

Gregorian Chant - "Dies Irae" - YouTubeDebussy: La Mer (Valery Gergiev, London ... グレゴリオ聖歌から始まってドビュッシーに終わる西洋音楽の歴史。 作曲家の列伝っていうよりは全体的な流れがどうだったか、という本。 吉田秀和はやっぱり…

その先は  エンゲルス「空想より科学へ」

「ヘーゲルの思想はついに巨大な流産であった。」っていう言い回しは気に入ったので 機会があればぜひ使ってみたいです。 (いいタイミングがあったら教えてください。) おわり

永遠につまらない  カント「永遠平和のために」

高尚なこと以外なにも書いてなかった… おわり

旅路をたどること  リービ英雄「延安」

The Strokes - Last Nite - Live At T In The Park - YouTube 明記されていなけいけど多分、 Edgar Snowのルポタージュを60年経って辿ったんだと思う。 祖父が亡くなって、自分の周りからはそれで全く戦争の記憶が消えたように感じていたが、 一方で「共産…

例えば理科の教科書  ファラデー「ロウソクの科学」

ファラデー(1791‐1867)が王立研究所のクリスマス講演として 子供たちを対象に行った一連の実験集・講演録。 基礎医学に触れると、 捉えたい現象がまず頭の中にあって、それを捕まえるために実験系を組立てるという順序に慣れてしまうけど、 本来の自然科学…

大西洋を越えて  レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」

「私は旅や探検が嫌いだ。」 この本の有名な書き出しだけれど、改めてフランス人の偏屈さを、そして偉大さを、 ドンと目の前に突き出すような第一文。 もっと言うと第一部タイトルが“旅の終わり”で、その中で第一章が“出発”。 全く性格がねじくれている。 (…

太陽までの距離は?  「フォン・ノイマンの生涯」

いわゆる天才の伝記モノなんだけど、 アメリカの軍事産業関連の記述が多かった。 (原子爆弾よりも、神経コンピューティングとかゲーム理論の話が 読みたかったんだけれど) とても長い。 伝記を読むのは好きで、中でも特に独裁者モノと数学者モノが好きなん…

the sun's not yellow, it's Chiken  カミュ「ペスト」

不条理とか論理の欠如とか、そんなことがしばしばこの本と結び付けられてるけど 少なくとも主人公のムルソーは嘘をつかない正直な人間だと思うし、 自分の感情の中には理性ではどうしようもない部分もあることに自覚的な素晴らしい人間と僕には思える。 カフ…

 ヘミングウェイ「老人と海」

読み終わったけど、なんだかなー まぁ長かった訳でもないしまぁいいか、って感じ これをハードボイルドだ、男性的だ、アメリカ文学の出発点だ、っていう人がいたら、多分それはそれまでろくな文学を知らない人か、書評通りの感想しか持てない人か、場合によ…

ポケットにはきっと入らない  グールド「グールドは語る」

Glenn Gould plays Bach - YouTube グールドのロング・インタビュー。 インタビュアーはジョナサン・コット。 (もとはローリングストーン誌の企画ってこともあって)ポップ・ミュージックの話をするグールド、というのに興味があったんだけれど、 そういう…