趣味

ごく個人的な体験   大江健三郎 「個人的な体験」

これから一ヶ月で100回は好きな食べ物を聞かれると思うが、 好きと言っても、 一人で食べるのかみんなで食べるのか、自分で作るのか外食するのか、たまに食べるのか毎日食べるのか、 色々な観点がある訳で、一言じゃ言えないよね。 「好きな食べ物は苺で…

もっとヘッドシェイクしてくださいという感じ 中井久夫「こんなときわたしはどうしてきたか」

・面接のたびに薬の飲み心地を聞いています。 飲み心地を問うのが精神科であり、飲んでいるかどうかをチェックするのは内科でしょう。 ・カタレプシーの解けた患者さんが、「自分が指一本動かしたとしたら、ひょっとしたら世界が壊れるかもしれない。私は世…

ファンク・ミュージックについて オルテガ「大衆の反逆」

オルテガは「大衆」をこう定義する。 強くなりたいと日々思いつつも、なれない人たち。 The Jimi Hendrix Experience - Foxey Lady だから、彼/彼女らは自分の願望を投影して、「ぼくはマッチョだ、ぼくは媚びない、ぼくは闘う!」みたいな一緒にいて疲れる…

音楽と言葉とうつ病分類  木村敏訳「音楽と言葉」

西洋音楽の中心が、長短のアクセント構造を持つギリシア語文化(西暦1000年頃から)から強弱のアクセント構造を持つドイツ語文化(バッハの登場前後から先)に移ったことで起きた変化についての論説。 著者が、ドイツの大学で研究しているギリシア人教授…

薦められて読む本は大体こんな感じだ 遠藤周作「海と毒薬」

戦時中に、日本軍と九州大学がアメリカ軍の捕虜を生きたまま解剖した事件があった。(軍医は取り出した肝臓を「景気づけに」食べさせようとしたらしい、若手将校に。) 武満徹 《微風》 / Toru Takemitsu 《Breeze》 - YouTube 解剖に参加した医師二人と看護…

川の向こうで    モーム「女ごころ」

バイオリン弾きと恋に落ちた時点で読むのをやめたけれど、 モームが書いたんだし多分その後に色々あったんだろう。 女ごころ (ちくま文庫)

「和声の歴史」 オリヴィエ・アラン

正直に言って1割も理解できなかった(何しろ和声と和音の違いも途中で教わったくらいだったし)ただバロック時代の演奏家兼作曲家であった人たちが、そればっかりやっていて“飽き”が来なかったのかという疑問は解消できた。 ジャズの和音として今習うものや…

音楽家について    シューマン「音楽と音楽家」

手首の新らしき奏鳴曲いかに麗し、叫虞無の指揮いかに忌むべきを記したる修男のさま、いとおかし。 まさに現し世の楽徒の見るべき姿かな。 奏せざる評論衆の浅薄たるさま、評論せざる奏家も知るところなり。 楽器もて語るのみを善しとするは、自らの修練の果…

理想と現実 - カー「危機の二十年」

国際政治学における理想主義(進歩的思想、モラルの重視)と現実主義(保守的思想、権力の重視)の役割について述べている。 「左派が知的に優れていることは、ほとんど疑う余地がない。 左派だけが政治行動の原理を考え出し、政治家が目指すべき理想を導き…

厚い本  王丹「中華人民共和国史15講」

天安門事件の学生リーダーだった王丹 Wang Dan は、動乱罪で起訴され、6年間を獄中で過ごした。 釈放後、彼はアメリカへ亡命しハーバード大学で歴史学を修め、現在は台湾で教鞭をとっている。 その王丹が、学生(大陸からの留学生も含む)を相手に行った「…

大江健三郎の書くもの                   岩波書店編 沖縄「集団自決」裁判

自分の好きな人が巻き込まれた争い、 特にその人が最後には勝つと分かっている場合、 それを外から眺めているのは非常に面白い。蜜の味である。 1960年代、沖縄復帰の以前に、 沖縄を下敷きにした戦後体制の告発と、 「このような日本人でないところの日…

男女の間に友情は成立するか

フェルマーの最終定理で有名な 谷山志村予想氏(の長生きしてる方)が書いたエッセイ。 まとめると、 掛け算の順序についての議論は非常に有意義だから死ぬまでやってろ、 ということでした。 数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)

ドレッシングくらい自ら作り給え  伊丹十三「女たちよ」

読む限り、ただの料理好きグルメおじさんだ。 カセットテープに自分の成長記録を吹き込んで大江健三郎に送りつけてから 飛び降り自殺するような変わった行動パターンの人には思えなかった。 人間は難しい。 女たちよ!(新潮文庫)

谷崎と萌えることの美学 谷崎純一郎「春琴抄」

萌える、というような感じ方を最初に書いたのは谷崎だと思う。 つまり光源氏のような、 顔も声も綺麗で、趣味も良くて、所作にいつも品があって、というような満点人間への賞賛ではなく、 姿形が美しくて、それに加えて人とちょっとだけ違ったところがある、…

犬派の暗躍(その2)  - NATROM著 「ニセ医学」に騙されないために

医科学が高度に発達した結果、高齢を迎える方が増え、 医療倫理が発展した結果、医療の言葉は「正直」になり、 その結果、医者もどきが跋扈する状況を生まれたというのは、 ほとんど寓話的な皮肉だ。 ある病院で根拠に基づいた医療を徹底することが、 その地…

猫派の暗躍  アルベール・メンミ「人種差別」

自己紹介もしないうちに、「ベッド派?布団派?」と聞いてくる人たちになぜかよく遭遇する。 「いやぁ、どっちもですかね…」などと僕が答えると「どっち?どっちで寝ることが多いの?週に何回くらいベッド?あと寝るときはどっち向く?仰向け?いつから?ね…

驚異の100日

iPS細胞で作ったコンドームは拒絶反応が少ないらしい という事を思いついた人が仮にいたとしても、 それを言わないで心に秘めておけるうちが華だと思う。 谷崎は、この作品で夫婦のセックスレスを扱ったけれど、 非常に美しい華を咲かせている(と思う)。 …

彼はやっぱり清楚だったのか 三島由紀夫「音楽」

三島由紀夫の描く主人公というと、良家の子女だとか合宿中の剣道部員だとか 暑苦しいだけであまり生産的でない人間ばかりだが、 この本に限っては精神科医という、比較的に涼しげな人種が主人公であった。 (まぁ生産性については良い勝負だと思う。) 幼児…

「向こうもちょっと寄ってみただけかもしれない」       笠原嘉「精神科における予診・初診・初期治療」

“精神科医というと、 「心因性」を第一に考慮することの専門家であるかのような誤解が 外部の人によってしばしばもたれるが、そうではない。 たしかに精神科医は「精神現象の病的側面へのアプローチ」を専門とするものだけれども、 そのことは「精神異常現象…

小学校の課題図書を読み返してみた             ラディゲ「肉体の悪魔」

もうすぐ結婚してしまう女性に恋した12歳の少年が、 弁舌巧みに自分好みの寝室家具をその夫婦に買わせることで、 そしてその家具に囲まれた初夜を二人に過ごさせることで、 ささやかな復讐を遂げる話。 春風のような異常性癖感が気持ちいい青春小説だった…

太るためには逆に2食が良い、みたいな           徐京植「ディアスポラ紀行」

近代以前は宗教が人の死生観を形成していた。 しかし宗教的認識が崩れた後に登場した科学や自由主義といった近代思想は 人が持つ 死への恐怖/不死への憧憬 に対処することができず、その変わりにナショナリズム、「国民」という個人の生死を超えて続くもの…

安部公房とチーズケーキ  「無関係な死」

小林秀雄の冗談を真に受けて、安部公房はチーズケーキのことをアメリカの高野豆腐だと信じていたらしいけど、 彼の短編なんかを読んでいると確かに、そういう種類の人間が書く文章だよなという気がしてくる。 無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

えらい売れたらしいけど 「帰ってきたヒトラー」

両サイドに均等に悪口を言えば何言ってもいいんじゃないという種類の本だった。 あるいは「冗談なんだからマジメに反論するナヨ」という姿勢。 いろいろと出尽くしてるかなという印象。 もうすぐ映画にもなるっぽい。 表紙に関してはグッドデザインだと思う。…

彼は色恋よりも酒を好んだ                 アブー・ヌワース「アラブ飲酒詩選」

アラブ飲酒詩選、まずタイトルが良い。すごく良い。 アラブ淫種子線という誤変換すら、なんだか許せる感じだ。 1ページ目から朝酒の詩だ。「酒を飲みすぎて心苦しい、だから陽気になるまでもっと飲もう。」というポジティブな姿勢で朝を迎えている。 「牧畜…

同情しなくもない 郭 沫若 「歴史小品」

「妻、君のいい匂いのせいで僕は思索に集中できない」と孟子が泣く話、良かった。 歴史小品 (岩波文庫 赤 26-2)

理想社会は面白い  カンパネッラ「太陽の都」

ユートピア文学を読むのが好きだ。書かれた場所も時代も違う筈なのに、どれも似た香りがある。 例えば、本筋とは恐らく関係ないであろう部分(男女がどこで寝るとか、食事のルールとか)が共通して詳しく書かれているところとか。旅行人の見聞録という体裁で…

平均律の謎 サリヴァン「ピアノと平均律の謎」

完璧な音律が不可能であることって、 たとえば円周率が無理数だったり 位置と運動量が同時に求められなかったりっていうのに似てると思った。 ヒトが識別できる最低の周波数差ってたぶん大したことないと思うんだけど、 聴覚生理に基づいた音律ってのはない…

「豊富な経験と高度の学識」について  津田敏秀「医学的根拠とは何か」

「医師としての長年の経験から、物質Aはガンを治すと断言する。」 「実験により、物質Bにガンを治療する成分が含まれていると判明した。」 「某町8000人を対象とした調査により、物質Cはガンを治療すると分かった。」 A,B,Cのどれが世間で最も信用を得るだろ…

BWVがいつまでもBMWに見えて困る             渡辺和彦「ラテン・クラシックの情熱」

Cuarteto Latinoamericano plays Heitor Villa-Lobos “わかりやすいメロディー、熱帯のセレナードを思わせる緩徐楽章、 陽気な歌とサンバのリズムのフィナーレ楽章。これは本当に楽しい。 カルテットがこんなにハッピーでいいんですか? ハイ、いいんです!”…

文系は陰影でも礼賛してろよ  芥川也寸志「音楽の基礎」

The Art of Fugue, BWV 1080 中学生くらいまで、楽譜というものに何か強い違和感があった。その違和感の中身をはっきりさせる言葉とやる気がなくてきっと自分には音楽が向いてないんだろう、と判断していた。 高校生になり、テンポというものは演奏者が自由…