読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

もっとヘッドシェイクしてくださいという感じ 中井久夫「こんなときわたしはどうしてきたか」

・面接のたびに薬の飲み心地を聞いています。 飲み心地を問うのが精神科であり、飲んでいるかどうかをチェックするのは内科でしょう。 ・カタレプシーの解けた患者さんが、「自分が指一本動かしたとしたら、ひょっとしたら世界が壊れるかもしれない。私は世…

湿布

「なるほど…一人で生きていく自信がないと…そういうわけなんですね… 貴方の苦しみは…よく分かりました… 人間はとても弱い存在です… そう、ちょうどこの一枚の湿布のようにね… 触ってみてください…どうですか、ヌルヌルしているでしょう…フフフ… でもね…こう…

君ならできる   ワトソン 「二重らせん(中村桂子訳)」

DNA分子が2重螺旋を描くことは、いまや地動説くらいに当たり前のことだけれど、これが発見される前までは、DNA結晶のX線写真とその構成分子が知られていただけだった。 例えるなら、シルエットと建材の、たった2つヒントから大聖堂の設計図を再現するよう…

性交時頭痛について 岩田健太郎訳「ナラティブとエビデンスの間」

性交時頭痛という病名があるが、この命名は愚の骨頂だと思う。 患者の生活をより良くするために医療はあるべきであって、分類学的な位置を表すだけの病名に臨床上の価値はない。 理解できないものに対して人間が示す本能的な拒否感を考慮すれば、むしろ医療…

Silence like a cancer grows                  スーザン・ソンタグ 「隠喩としての病」

風邪、ペスト、痛風といった病気の名前には、それぞれが引き起こす特定のイメージがある。 つまり、病気とはメタファーでありうる。 Paul Simon - The Sound of Silence スーザン・ソンタグは、結核と癌が持つイメージについてこの論文で述べている。 19…

脳死と、一部の用語法について 柳田邦夫「犠牲」

20年前、移植医療の推進に向けて、 「脳死」の定義や、それの医療における位置づけが盛んに議論されていた時期があった。 作家の柳田邦夫は、それまで医療に関するノンフィクション作品が多く、 当時、「臨時脳死及び臓器移植調査会」のメンバーでもあっ…

精神医学と恋愛、宗教的体験について            笠原嘉「全体の科学のために」

以下引用 「まれならず分裂病の発病状況においてみられる恋愛(失恋ではない)から、われわれは彼らにとっての恋愛の意味をつぎのように知る。 ある人にとって恋愛は両親からの、あるいは少年的世代からの『門出』であるにとどまらず、恋愛以前の自己自身か…

理想と現実 - カー「危機の二十年」

国際政治学における理想主義(進歩的思想、モラルの重視)と現実主義(保守的思想、権力の重視)の役割について述べている。 「左派が知的に優れていることは、ほとんど疑う余地がない。 左派だけが政治行動の原理を考え出し、政治家が目指すべき理想を導き…

男女の間に友情は成立するか

フェルマーの最終定理で有名な 谷山志村予想氏(の長生きしてる方)が書いたエッセイ。 まとめると、 掛け算の順序についての議論は非常に有意義だから死ぬまでやってろ、 ということでした。 数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)

犬派の暗躍(その2)  - NATROM著 「ニセ医学」に騙されないために

医科学が高度に発達した結果、高齢を迎える方が増え、 医療倫理が発展した結果、医療の言葉は「正直」になり、 その結果、医者もどきが跋扈する状況を生まれたというのは、 ほとんど寓話的な皮肉だ。 ある病院で根拠に基づいた医療を徹底することが、 その地…

太るためには逆に2食が良い、みたいな           徐京植「ディアスポラ紀行」

近代以前は宗教が人の死生観を形成していた。 しかし宗教的認識が崩れた後に登場した科学や自由主義といった近代思想は 人が持つ 死への恐怖/不死への憧憬 に対処することができず、その変わりにナショナリズム、「国民」という個人の生死を超えて続くもの…

怒鳴るタイプの指導者は、神が創った訳じゃない 「種の起源」

生物学の端っこに立つ身として、一度は読まないといけないだろうとある種の義務感を感じていたが、上下巻の由緒正しい岩波訳にこれまで尻込みしていた。そしてこの前、光文社の新訳シリーズで見つけたのでジャケ買いした。(パウル・クレー風の鳩の絵) 遺伝…

誰も猪瀬さんを超えてない  ラッセル「ロシア共産主義」

旧ソ連の楽園描写を読むのは楽しい。ドラえもん映画の最初の30分のようだ。 多くの(親露的な)西側知識人と同様、ラッセルも1920年にソ連を訪問した。革命から3年後、人類史上初めての社会主義社会が素晴らしいものとして宣伝されていた時期。 しかし実際の…

「豊富な経験と高度の学識」について  津田敏秀「医学的根拠とは何か」

「医師としての長年の経験から、物質Aはガンを治すと断言する。」 「実験により、物質Bにガンを治療する成分が含まれていると判明した。」 「某町8000人を対象とした調査により、物質Cはガンを治療すると分かった。」 A,B,Cのどれが世間で最も信用を得るだろ…

文系は陰影でも礼賛してろよ  芥川也寸志「音楽の基礎」

The Art of Fugue, BWV 1080 中学生くらいまで、楽譜というものに何か強い違和感があった。その違和感の中身をはっきりさせる言葉とやる気がなくてきっと自分には音楽が向いてないんだろう、と判断していた。 高校生になり、テンポというものは演奏者が自由…

ダンス・ダンス・ダンス  

科学が僕たちに何を与えてくれるのかという問いに対する、 ほら携帯電話はすごく便利じゃないか、とか、夜は明るいほうが楽しいじゃないか、とか そういう風に答えることは間違っていないし、医学に至っては増して実利的なところがあるけれど、 「例えばこの…

具合の悪い時は 笠原嘉「軽症うつ病」

内因性うつ、心因性うつという分類、言葉づかいや、 「こころ」と分子動態のつながりといった話には いつもどこかモヤモヤするものがあったが、 そうかこういう風に「語る」ものなのかとという 些細だけれど大きな経験をした。 読み甲斐のある本だった。 (…

科学と個人の隙間で  笠原嘉「精神病」

精神病、特に統合失調症について、 心理社会的な側面から生物学的なことまで 配慮が行き届いた文章だった。 神経症 neurosis と精神病 psychosis の境界についての考察も詳しい。 柔らかい、非常に読みやすい文章で、 きっと著者は実際に素晴らしい臨床医な…

反射定数の航海に楔を寄せて  ガタリ「闘争機械」

たとえば歴史学や政治学上の現象を、 「素粒子」だとか「ニューロン」といった他領域の言葉を 用いて語る(「脱領土化」とガタリ・ドルゥーズが呼ぶ行為)という行為の効用、その意味の説明などがあった。 (そしてこのインタビューの数年後にソーカル事件を…

こんな風に分かったように書けばいいんだ多分  中村桂子「科学者が人間であること」

「ガリレイは世界はすべて数学で書かれていると言い、 それを受け継いだ近代の科学者はいつか科学が世界を語りきれると考え、 現代においてもそれを目指しています。」 この一文に代表されるように、著者がずいぶん偏った環境で科学哲学を取り込んでいるよう…

美しい家並み、着飾った人々 F・ベーコン「ニュー・アトランティス」

壊血病の原因が分かったのは確か大航海時代の後だったと思うんだけど、 17世紀に既に「海で病気にかかった人には確実によく効く」「たくさんの真っ赤なオレンジを」 差し出すユートピア人が描かれているのは、 ベーコンに何か閃くものがあったからなのだろう…

遺伝子とタンパク質のスープに揉まれて  G・ウィリアムス「生物はなぜ進化するのか」

科学の知見を語るときに 目的論的な説明をすることを僕はこれまで避けてきたけれど、 この著者が言うみたいに 既知の事実を物語として配列することが、 将来の発見への手掛かりとなるっていうのも素敵だなと思った。 (それなら一層、その物語というのは概念…

歴史の人種性 レヴィ=ストロース「人種と歴史」

ペルー先住民族に魂はあるかを調査するために宣教師団は三人の青年住民をスペインに連れ帰った。青年たちはその後スペイン語を覚えなかったために魂は無いと結論された。一方で先住民たちは白人が神であるかを調べるために白人の死体を池に沈めた。その死体…

企て2 チョムスキー「生成文法の企て」

序説を除いて本の半分くらいを占めていた言語学の理論や展望については結局読み飛ばしてしまった。 彼が自分の学説に対する当時の学会について「複雑な現象に対して非常に深い原理的説明が与えられるという可能性を、多くの人達は信じていないし、また信じた…

獲得形質and 「今日のソ連」

以前読んだ「ソヴェートの市民生活」と同じ形式と内容。 ソビエト生物学についてやや詳しい記述があった。 以下引用 ... 遺伝子説の拒否 ソ連の生物学者が、遺伝説では説明できないとし、私の注意を喚起したデータは次の四つである。 (一)栄養雑種の子孫に…

だって好きなんだもん    フロム「自由からの逃走」

市民はなぜ、自分たちを抑圧するような人間を指導者に選ぶのか? アメリカに亡命した心理学者が、 「リアルタイムで」ナチスを分析した本。(41年初版) なぜ、に対する答えは、目新しいものでないと感じたけれど、 これが書かれた当時には多分、画期的だ…

騙されたいッ  D・トンプソン「すすんでダマされる人たち」

患者を薬漬けにしたほうが医者は儲かる なんて主張を聞くと、一瞬あぁそうかもなって思う。 タバコを吸っても肺がんリスクは変わらない、とか。 タバコ吸ってて健康な人たくさん知ってるしね? ワクチンは外来物だからホントは身体に悪い、とかとか。 一瞬そ…

シュレーディンガーを猫   シュレーディンガー「生命とは何か」

思うに、1944年というのがポイントで、 まだ遺伝子の本体が分かってなかった時代。 でも一方でマクロ遺伝学の知見は完成していた時代。 シュレーディンガーは 遺伝子の本体を数百の原子からなる単一の分子(非周期性結晶)と推測した。 そして、突然変異…

非積極的な平等とは  辻村みよ子「ポジティブ・アクション」

「数学科の募集人員9人のうち、4人を女性枠、5人を一般枠とします。」 っていうのを九州大学の理学部が発表して話題になったことがあった。 実際上の格差を是正するために行われるこういう行動をPA;ポジティブ・アクション(とか、アファーマティブ・アク…

序章の感想  チョムスキー「生成文法の企て」

3日くらいかけて訳者序章の"基本的問題設定"と"論点の整理"を読んだ。① 生成文法については、wikipediaに毛が生えたほどの知識しかなくて、こんな風な主張だとこれまで考えていた。「あらゆる言語に共通した、(普段は見えない)文法的な上位構造があって、…

イデオロギーと科学の間に                    S・グールド「人間の測り間違い 差別の科学史」

この本の主張は、狭義には 「知能が一つの数値として計測されうるもので、かつそれは生得的に決定されて、且つ強い遺伝性がある。」... という迷信を反証することだけど、 ―こう書くと、イマドキそんなこと言うやついるのかよって感じだけど、 人種論を「科…

その先は  エンゲルス「空想より科学へ」

「ヘーゲルの思想はついに巨大な流産であった。」っていう言い回しは気に入ったので 機会があればぜひ使ってみたいです。 (いいタイミングがあったら教えてください。) おわり

例えば理科の教科書  ファラデー「ロウソクの科学」

ファラデー(1791‐1867)が王立研究所のクリスマス講演として 子供たちを対象に行った一連の実験集・講演録。 基礎医学に触れると、 捉えたい現象がまず頭の中にあって、それを捕まえるために実験系を組立てるという順序に慣れてしまうけど、 本来の自然科学…

大西洋を越えて  レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」

「私は旅や探検が嫌いだ。」 この本の有名な書き出しだけれど、改めてフランス人の偏屈さを、そして偉大さを、 ドンと目の前に突き出すような第一文。 もっと言うと第一部タイトルが“旅の終わり”で、その中で第一章が“出発”。 全く性格がねじくれている。 (…

太陽までの距離は?  「フォン・ノイマンの生涯」

いわゆる天才の伝記モノなんだけど、 アメリカの軍事産業関連の記述が多かった。 (原子爆弾よりも、神経コンピューティングとかゲーム理論の話が 読みたかったんだけれど) とても長い。 伝記を読むのは好きで、中でも特に独裁者モノと数学者モノが好きなん…

無言映画みたいに  クリストフ「悪童日記」

いい本だった。童話のようで。 グリム童話の原版を読んだ時みたいに。 彼女のように、固有名詞を表さないでイメージを形成する作家こそ、 本物の芸術家だなぁと思う。 これを読んで“戦争の悲惨さが…”みたいな感想しか持たない人は どーかしていると思う。 さ…

麦の若穂     フランクル「夜と霧」

高校生の時、倫理の教科書で“麦の若穂”のエピソードを知った。 タイトルも記憶しないままずっと頭の片隅に残っていたけれど、ホンのふとしたことで二度目の出会いがあるわけで、そういうときに幸せだなと感じる。 (あぁそれにしても授業科目に倫理と名付け…

Ashleyの思い出   児玉真実:「アシュリー事件」

書店でタイトルが気になって購入した。 差別とか優生思想関係の本は興味があってよく読むけれど、その度に人間の排他性には生物学的な機序でもあるのかと思ってしまう。 時代も文化も違うはずの場所で、出来事があまりに似てるので。 おわり