2013-12-07から1日間の記事一覧

スクリーンじゃない、女優を見ろよ。             ヴァルコール「海の沈黙」

「あの素直な群衆をキリストの墓へ向って急がせた愛が、頭だけのものだったとでもいうのか?この愛によらずフランスを愛することができるか? フランスは、ほかの国と同じような国ではない。 その資格があるにせよないにせよ偶然生れ合わせたために父子代々…

飽きないニスの職人たち 石井宏「誰がバイオリンを殺したか?」

Isaac Stern playing Chaconne in D minor 誰がバイオリンを殺したか? 「部屋で弾くには音が大きすぎる」と言われていたバイオリンは、 19世紀に始まる音楽のビジネス化・大音量化の中でどう変化したか。 歴史の転回する瞬間を、 演奏家として、作曲家と…

ダンス・ダンス・ダンス  

科学が僕たちに何を与えてくれるのかという問いに対する、 ほら携帯電話はすごく便利じゃないか、とか、夜は明るいほうが楽しいじゃないか、とか そういう風に答えることは間違っていないし、医学に至っては増して実利的なところがあるけれど、 「例えばこの…

具合の悪い時は 笠原嘉「軽症うつ病」

内因性うつ、心因性うつという分類、言葉づかいや、 「こころ」と分子動態のつながりといった話には いつもどこかモヤモヤするものがあったが、 そうかこういう風に「語る」ものなのかとという 些細だけれど大きな経験をした。 読み甲斐のある本だった。 (…

33の質問、60の答え  J・ケージ短文集

John Cage: Dream - YouTube 「楽器群を会場の様々な場所に配置して行う合奏」 とても面白そうだ。 ジョン・ケージ著作選 (ちくま学芸文庫)

科学と個人の隙間で  笠原嘉「精神病」

精神病、特に統合失調症について、 心理社会的な側面から生物学的なことまで 配慮が行き届いた文章だった。 神経症 neurosis と精神病 psychosis の境界についての考察も詳しい。 柔らかい、非常に読みやすい文章で、 きっと著者は実際に素晴らしい臨床医な…

反射定数の航海に楔を寄せて  ガタリ「闘争機械」

たとえば歴史学や政治学上の現象を、 「素粒子」だとか「ニューロン」といった他領域の言葉を 用いて語る(「脱領土化」とガタリ・ドルゥーズが呼ぶ行為)という行為の効用、その意味の説明などがあった。 (そしてこのインタビューの数年後にソーカル事件を…

こんな風に分かったように書けばいいんだ多分  中村桂子「科学者が人間であること」

「ガリレイは世界はすべて数学で書かれていると言い、 それを受け継いだ近代の科学者はいつか科学が世界を語りきれると考え、 現代においてもそれを目指しています。」 この一文に代表されるように、著者がずいぶん偏った環境で科学哲学を取り込んでいるよう…

褐色の大地を、銃を担いで オーウェル「カタロニア賛歌」

スペイン内戦。 「みすぼらしい制服をまとった民兵の群れが、 体を温めようと街を歩き回っていた。 廃墟と化した壁の上のポスターがぼくの目に留まった。 昨年の日付のポスターで、しかじかの日に『六頭のハンサムな牡牛』が円形競技場で殺されることを予告…

美しい家並み、着飾った人々 F・ベーコン「ニュー・アトランティス」

壊血病の原因が分かったのは確か大航海時代の後だったと思うんだけど、 17世紀に既に「海で病気にかかった人には確実によく効く」「たくさんの真っ赤なオレンジを」 差し出すユートピア人が描かれているのは、 ベーコンに何か閃くものがあったからなのだろう…

限りなく透明に近くて ヴェイユ「根を持つこと」

生まれた場所を、 自分がずっと死ぬまで大事にすることは多分ないけれど。 それ以上にこれが書かれたような状況に自分がいつ置かれるのか。 明日だろうか。 おわり

2回目に貫かれるもの  クリストフ「ふたりの証拠」

Lou Reed & John Cale - Small Town - YouTube 主題と修辞が必要十分の関係になっていて、 文学っていうのは児童文学が至高なんだなと改めて感じた。 例えばルー・リードみたいに。 ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

遺伝子とタンパク質のスープに揉まれて  G・ウィリアムス「生物はなぜ進化するのか」

科学の知見を語るときに 目的論的な説明をすることを僕はこれまで避けてきたけれど、 この著者が言うみたいに 既知の事実を物語として配列することが、 将来の発見への手掛かりとなるっていうのも素敵だなと思った。 (それなら一層、その物語というのは概念…

歴史の人種性 レヴィ=ストロース「人種と歴史」

ペルー先住民族に魂はあるかを調査するために宣教師団は三人の青年住民をスペインに連れ帰った。青年たちはその後スペイン語を覚えなかったために魂は無いと結論された。一方で先住民たちは白人が神であるかを調べるために白人の死体を池に沈めた。その死体…

企て2 チョムスキー「生成文法の企て」

序説を除いて本の半分くらいを占めていた言語学の理論や展望については結局読み飛ばしてしまった。 彼が自分の学説に対する当時の学会について「複雑な現象に対して非常に深い原理的説明が与えられるという可能性を、多くの人達は信じていないし、また信じた…

獲得形質and 「今日のソ連」

以前読んだ「ソヴェートの市民生活」と同じ形式と内容。 ソビエト生物学についてやや詳しい記述があった。 以下引用 ... 遺伝子説の拒否 ソ連の生物学者が、遺伝説では説明できないとし、私の注意を喚起したデータは次の四つである。 (一)栄養雑種の子孫に…

だって好きなんだもん    フロム「自由からの逃走」

市民はなぜ、自分たちを抑圧するような人間を指導者に選ぶのか? アメリカに亡命した心理学者が、 「リアルタイムで」ナチスを分析した本。(41年初版) なぜ、に対する答えは、目新しいものでないと感じたけれど、 これが書かれた当時には多分、画期的だ…

昨日何食べたの、ねぇ、何食べたの? モーム「お菓子とビール」

素敵なタイトルだと思って買ってみた。 (図書券が使えない本屋もあることを知った。) 読んでいてデレク・ハートフィールドの挿話をふと思い出した。 ストーリーテラーという種族の想像力は、全くすごいものだと思う。 回想の場面が、21歳の医学生が不倫…

ところで食事は美味しかったのだろうか 丸山政夫「ソヴェートの市民生活」

1947年頃のソビエト連邦の記録。 市民の生活がユートピアのように書かれているが、 この時期には実際そうであったのか、或いはこの本がそういう意図をもって出版されたのか、 浅学のため不明。 「仕事の量と質の差、能力の差に拘らず、同一賃金を受けるとい…

騙されたいッ  D・トンプソン「すすんでダマされる人たち」

患者を薬漬けにしたほうが医者は儲かる なんて主張を聞くと、一瞬あぁそうかもなって思う。 タバコを吸っても肺がんリスクは変わらない、とか。 タバコ吸ってて健康な人たくさん知ってるしね? ワクチンは外来物だからホントは身体に悪い、とかとか。 一瞬そ…

シュレーディンガーを猫   シュレーディンガー「生命とは何か」

思うに、1944年というのがポイントで、 まだ遺伝子の本体が分かってなかった時代。 でも一方でマクロ遺伝学の知見は完成していた時代。 シュレーディンガーは 遺伝子の本体を数百の原子からなる単一の分子(非周期性結晶)と推測した。 そして、突然変異…

非積極的な平等とは  辻村みよ子「ポジティブ・アクション」

「数学科の募集人員9人のうち、4人を女性枠、5人を一般枠とします。」 っていうのを九州大学の理学部が発表して話題になったことがあった。 実際上の格差を是正するために行われるこういう行動をPA;ポジティブ・アクション(とか、アファーマティブ・アク…

序章の感想  チョムスキー「生成文法の企て」

3日くらいかけて訳者序章の"基本的問題設定"と"論点の整理"を読んだ。① 生成文法については、wikipediaに毛が生えたほどの知識しかなくて、こんな風な主張だとこれまで考えていた。「あらゆる言語に共通した、(普段は見えない)文法的な上位構造があって、…

絶世の美女  ヘッセ「シッダールタ」

シッダールタ「めいめい、自分の持っているものを与えるのです。軍人は力を与え、商人は商品を与え、教師は教えを、農民は米を、漁師は魚を与えます。」 豪商カーマスワーミ「いかにもその通り。それであなたが与えるべきものは何ですか。 あなたが学んだこ…

有無をいわずに飲み込め  オーシュ卿「眼球譚(初稿)」

この本はマジで面白いから諸氏は是非読むべき おわり

天狗のことなど  中島敦「山月記・李陵」

久しぶりに読み返した山月記も面白かったけど、 古代アッシリアを描いた「文字禍」が良かった。 「埃及人は、ある物の影を、その物の魂の一部と見做しているようだが、文字は、その影のようなものではないのか。 獅子という字は、本物の獅子の影ではないのか…

23歳の彼は  カポーティ「遠い声 遠い部屋」

書かれたものに時間を割くのは、 何か出来事をその著者がどう捉えるのかと、 どういう経緯がその思想を形成したと本人が感じているのか の二つに僕が興味あるからで、 その点で自伝というのは、とても考えることが多い。 その分読むのにいつも時間がかかる。…

ゾルゲの跡に  ゾルゲ「獄中手記」

手記とされているのに前半部分を「本人以外の誰か」が書いているところとか、 開戦前夜まず間違いないなく彼が独・日・ソ間の最重要人物だったはずなのに取調録を公安が「紛失」しているところとか、 捕まる直前までゾルゲが研究していたのは...本当のところ…

イデオロギーと科学の間に                    S・グールド「人間の測り間違い 差別の科学史」

この本の主張は、狭義には 「知能が一つの数値として計測されうるもので、かつそれは生得的に決定されて、且つ強い遺伝性がある。」... という迷信を反証することだけど、 ―こう書くと、イマドキそんなこと言うやついるのかよって感じだけど、 人種論を「科…

多分これからも長く続くもの  吉田秀和訳「音楽の歴史」

Gregorian Chant - "Dies Irae" - YouTubeDebussy: La Mer (Valery Gergiev, London ... グレゴリオ聖歌から始まってドビュッシーに終わる西洋音楽の歴史。 作曲家の列伝っていうよりは全体的な流れがどうだったか、という本。 吉田秀和はやっぱり…