人の集まる場で、 自分の所属を言ったり、 あるいは何かの文章を発表するときも、 職場の名前のせいで 説得力がずっと強くなっている。 そのことに得意になっている自分もいる。 職場の権威が、 何か立派な行為に基づいてのものならともかく、 少なくとも現…

「プレコックス感」や「疎通性の障害」、を人に伝えるなら 電車の中で携帯電話を触っている人の表情、といえばごく近いかもしれない。 目前にいる自分にその顔を向けるひと。

精神運動興奮に至った人を、 社会から隔離するのを、本人のためだというのは詭弁だろう。 (幻覚妄想状態、という用語も慎重に使うべきだろう。 それが指している状態において「幻覚」「妄想」が証明される場合の方が少ない。 脳波検査ができない、 という本…

気仙沼日記22日目

一人で生活を続けるのが大変になったとき、 まとまった形の支援を得ようとすると、 やはり行政に手伝ってもらう必要がある。 そのためには、 書類をたくさん準備して、埋めて、提出することが必須である。 さて、 いわゆる認知症という状態の中に、 「Alzhei…

一時帰京日記 3日目

良いものを目指すために、 「統律」を掲げると、 それ自体は、新しいやり方を試行することだけれど、 その時に一つでもブンショが生まれると、 空気中の僅かなソウゴフシンとギシンアンキを栄養に、 ブンショは自己増殖を開始し、 規則を乗り越え、 それを生…

気仙沼日記 15日目

震災が襲った後、 気づくと患者さんが集まって病院の掃除を手伝っていた、 というのは本当にすごいことだ。 自分の職場に、人は手伝いに来てくれるだろうか。

気仙沼日記9日目

(メモ) そこで生活している人たちが 平常人のように鈍感ではなく、 平常人のように日和見主義でないだけであるとするなら、 Schizophreniaは内因性概念よりも、 むしろ反応性精神病の範疇で捉えられるのではないだろうか? 状態像としての 妄想症、幻聴症…

気仙沼日記8日目

精神科医に向けて書きます ・山村を回診する。一つの山に一軒の家があるくらいの人口密度。 ・そういう中に、いわゆる「濃厚家系」がいる。全員が未治療。 ・積んである紙束にword saladが出ている、部屋は乱雑、体調の変化を尋ねても「どうだったかなアハハ…

気仙沼日記 3日目

・港のほう(市街地)に行ってきた。 ・初めての土地でも海の方角がわかってしまった。前世はウミネコなのかもしれない。 ・気仙沼中学校が運動会をやっていた。「気中」と略すようだが読み方がわからない。やはり、「けちゅう」だろうか。 ・プレハブ小屋で…

気仙沼日記 2日目

・自己紹介(名字)したら「覚えやすい」と言われた。初めての体験。意義不明。 ・往診にでると、陸橋が崩れかけてて、そこから線路がぶら下がったままになっている。 ・「危ない」という話にはならないのだろう。その一帯は津波に洗われて、その残骸以外は…

筑波山いってきた

天気もいいので、 眺めが良いらしい筑波山に行こうと思い立った。 グーグルで調べると つくばエクスプレスでつくば駅→シャトルバス(40分)で登山口、とのこと。 私はSuicaと千円札一枚もって出掛けた。 つくば駅に到着。 シャトルバス乗り場へ。 「片道740…

2015年4月から読んだ本

・なだいなだ 権威と権力 権力的な体制を変えるには、倒すのではなく、 ぼくはそんなの知らないよ、となるしかないよねという話。良い。 ・河合隼雄 コンプレックス 印象に残らず ・遠山啓 数学入門(上) 聖書の「産めよ増やせよ」の英訳、 「Be fruitful, …

tourette症候群について  中井久夫 「昭和」を送る

「童顔の名残を残す色白の丸顔の少年である。彼は絶叫した。 ウオーッという叫びの中に「womakooooo」という言葉が隠されていた。 これは関東方言で女性性器のことだが、 さいわい関西で育った私には羞恥で身も世もあらぬ思いになることはない。 身をよじる…

ごく個人的な体験   大江健三郎 「個人的な体験」

これから一ヶ月で100回は好きな食べ物を聞かれると思うが、 好きと言っても、 一人で食べるのかみんなで食べるのか、自分で作るのか外食するのか、たまに食べるのか毎日食べるのか、 色々な観点がある訳で、一言じゃ言えないよね。 「好きな食べ物は苺で…

もっとヘッドシェイクしてくださいという感じ 中井久夫「こんなときわたしはどうしてきたか」

・面接のたびに薬の飲み心地を聞いています。 飲み心地を問うのが精神科であり、飲んでいるかどうかをチェックするのは内科でしょう。 ・カタレプシーの解けた患者さんが、「自分が指一本動かしたとしたら、ひょっとしたら世界が壊れるかもしれない。私は世…

湿布

「なるほど…一人で生きていく自信がないと…そういうわけなんですね… 貴方の苦しみは…よく分かりました… 人間はとても弱い存在です… そう、ちょうどこの一枚の湿布のようにね… 触ってみてください…どうですか、ヌルヌルしているでしょう…フフフ… でもね…こう…

ファンク・ミュージックについて オルテガ「大衆の反逆」

オルテガは「大衆」をこう定義する。 強くなりたいと日々思いつつも、なれない人たち。 The Jimi Hendrix Experience - Foxey Lady だから、彼/彼女らは自分の願望を投影して、「ぼくはマッチョだ、ぼくは媚びない、ぼくは闘う!」みたいな一緒にいて疲れる…

君ならできる   ワトソン 「二重らせん(中村桂子訳)」

DNA分子が2重螺旋を描くことは、いまや地動説くらいに当たり前のことだけれど、これが発見される前までは、DNA結晶のX線写真とその構成分子が知られていただけだった。 例えるなら、シルエットと建材の、たった2つヒントから大聖堂の設計図を再現するよう…

音楽と言葉とうつ病分類  木村敏訳「音楽と言葉」

西洋音楽の中心が、長短のアクセント構造を持つギリシア語文化(西暦1000年頃から)から強弱のアクセント構造を持つドイツ語文化(バッハの登場前後から先)に移ったことで起きた変化についての論説。 著者が、ドイツの大学で研究しているギリシア人教授…

性交時頭痛について 岩田健太郎訳「ナラティブとエビデンスの間」

性交時頭痛という病名があるが、この命名は愚の骨頂だと思う。 患者の生活をより良くするために医療はあるべきであって、分類学的な位置を表すだけの病名に臨床上の価値はない。 理解できないものに対して人間が示す本能的な拒否感を考慮すれば、むしろ医療…

Silence like a cancer grows                  スーザン・ソンタグ 「隠喩としての病」

風邪、ペスト、痛風といった病気の名前には、それぞれが引き起こす特定のイメージがある。 つまり、病気とはメタファーでありうる。 Paul Simon - The Sound of Silence スーザン・ソンタグは、結核と癌が持つイメージについてこの論文で述べている。 19…

脳死と、一部の用語法について 柳田邦夫「犠牲」

20年前、移植医療の推進に向けて、 「脳死」の定義や、それの医療における位置づけが盛んに議論されていた時期があった。 作家の柳田邦夫は、それまで医療に関するノンフィクション作品が多く、 当時、「臨時脳死及び臓器移植調査会」のメンバーでもあっ…

精神医学と恋愛、宗教的体験について            笠原嘉「全体の科学のために」

以下引用 「まれならず分裂病の発病状況においてみられる恋愛(失恋ではない)から、われわれは彼らにとっての恋愛の意味をつぎのように知る。 ある人にとって恋愛は両親からの、あるいは少年的世代からの『門出』であるにとどまらず、恋愛以前の自己自身か…

薦められて読む本は大体こんな感じだ 遠藤周作「海と毒薬」

戦時中に、日本軍と九州大学がアメリカ軍の捕虜を生きたまま解剖した事件があった。(軍医は取り出した肝臓を「景気づけに」食べさせようとしたらしい、若手将校に。) 武満徹 《微風》 / Toru Takemitsu 《Breeze》 - YouTube 解剖に参加した医師二人と看護…

川の向こうで    モーム「女ごころ」

バイオリン弾きと恋に落ちた時点で読むのをやめたけれど、 モームが書いたんだし多分その後に色々あったんだろう。 女ごころ (ちくま文庫)

「和声の歴史」 オリヴィエ・アラン

正直に言って1割も理解できなかった(何しろ和声と和音の違いも途中で教わったくらいだったし)ただバロック時代の演奏家兼作曲家であった人たちが、そればっかりやっていて“飽き”が来なかったのかという疑問は解消できた。 ジャズの和音として今習うものや…

音楽家について    シューマン「音楽と音楽家」

手首の新らしき奏鳴曲いかに麗し、叫虞無の指揮いかに忌むべきを記したる修男のさま、いとおかし。 まさに現し世の楽徒の見るべき姿かな。 奏せざる評論衆の浅薄たるさま、評論せざる奏家も知るところなり。 楽器もて語るのみを善しとするは、自らの修練の果…

理想と現実 - カー「危機の二十年」

国際政治学における理想主義(進歩的思想、モラルの重視)と現実主義(保守的思想、権力の重視)の役割について述べている。 「左派が知的に優れていることは、ほとんど疑う余地がない。 左派だけが政治行動の原理を考え出し、政治家が目指すべき理想を導き…

厚い本  王丹「中華人民共和国史15講」

天安門事件の学生リーダーだった王丹 Wang Dan は、動乱罪で起訴され、6年間を獄中で過ごした。 釈放後、彼はアメリカへ亡命しハーバード大学で歴史学を修め、現在は台湾で教鞭をとっている。 その王丹が、学生(大陸からの留学生も含む)を相手に行った「…

大江健三郎の書くもの                   岩波書店編 沖縄「集団自決」裁判

自分の好きな人が巻き込まれた争い、 特にその人が最後には勝つと分かっている場合、 それを外から眺めているのは非常に面白い。蜜の味である。 1960年代、沖縄復帰の以前に、 沖縄を下敷きにした戦後体制の告発と、 「このような日本人でないところの日…

special pleading な議論 ― 加藤陽子 それでも日本人は「戦争」を選んだ

「進化しすぎた脳」という本が、10年ほど前に流行した。 高校生を相手に、大学教授が最新の研究成果を授業するというスタイル。 この本もそういう作りだった。 ただ脳科学風釈迦説法が相対主義にしばしば陥るのに対して、 この本は極めてリアリスティック…

男女の間に友情は成立するか

フェルマーの最終定理で有名な 谷山志村予想氏(の長生きしてる方)が書いたエッセイ。 まとめると、 掛け算の順序についての議論は非常に有意義だから死ぬまでやってろ、 ということでした。 数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)

ドレッシングくらい自ら作り給え  伊丹十三「女たちよ」

読む限り、ただの料理好きグルメおじさんだ。 カセットテープに自分の成長記録を吹き込んで大江健三郎に送りつけてから 飛び降り自殺するような変わった行動パターンの人には思えなかった。 人間は難しい。 女たちよ!(新潮文庫)

谷崎と萌えることの美学 谷崎純一郎「春琴抄」

萌える、というような感じ方を最初に書いたのは谷崎だと思う。 つまり光源氏のような、 顔も声も綺麗で、趣味も良くて、所作にいつも品があって、というような満点人間への賞賛ではなく、 姿形が美しくて、それに加えて人とちょっとだけ違ったところがある、…

犬派の暗躍(その2)  - NATROM著 「ニセ医学」に騙されないために

医科学が高度に発達した結果、高齢を迎える方が増え、 医療倫理が発展した結果、医療の言葉は「正直」になり、 その結果、医者もどきが跋扈する状況を生まれたというのは、 ほとんど寓話的な皮肉だ。 ある病院で根拠に基づいた医療を徹底することが、 その地…

猫派の暗躍  アルベール・メンミ「人種差別」

自己紹介もしないうちに、「ベッド派?布団派?」と聞いてくる人たちになぜかよく遭遇する。 「いやぁ、どっちもですかね…」などと僕が答えると「どっち?どっちで寝ることが多いの?週に何回くらいベッド?あと寝るときはどっち向く?仰向け?いつから?ね…

野外音楽について ドビュッシー/音楽論集

「<野外>のために特別に作られる音楽 ― すべてが雄大な線で描かれ、光と自由に包まれた樹々の梢の上をたわむれ舞う声と楽器の大胆な飛翔による、野外音楽の可能性も出てくる。 黴くさい演奏会場に閉じ込められたら異常に聞こえるような和声の連続が、野外…

驚異の100日

iPS細胞で作ったコンドームは拒絶反応が少ないらしい という事を思いついた人が仮にいたとしても、 それを言わないで心に秘めておけるうちが華だと思う。 谷崎は、この作品で夫婦のセックスレスを扱ったけれど、 非常に美しい華を咲かせている(と思う)。 …

彼はやっぱり清楚だったのか 三島由紀夫「音楽」

三島由紀夫の描く主人公というと、良家の子女だとか合宿中の剣道部員だとか 暑苦しいだけであまり生産的でない人間ばかりだが、 この本に限っては精神科医という、比較的に涼しげな人種が主人公であった。 (まぁ生産性については良い勝負だと思う。) 幼児…

「向こうもちょっと寄ってみただけかもしれない」       笠原嘉「精神科における予診・初診・初期治療」

“精神科医というと、 「心因性」を第一に考慮することの専門家であるかのような誤解が 外部の人によってしばしばもたれるが、そうではない。 たしかに精神科医は「精神現象の病的側面へのアプローチ」を専門とするものだけれども、 そのことは「精神異常現象…

赤信号人間について アーレント「イェルサレムのアイヒマン」

ナチス下ドイツでユダヤ人の“収容所への移送”を担当していたアードルフ・アイヒマンの裁判の記録。文中で特に興味を惹くのは裁かれたその人間本人であって、 彼の人格について、(それがこの著作の主題ではないにせよ)多くの行が割かれている。 アイヒマン…

小学校の課題図書を読み返してみた             ラディゲ「肉体の悪魔」

もうすぐ結婚してしまう女性に恋した12歳の少年が、 弁舌巧みに自分好みの寝室家具をその夫婦に買わせることで、 そしてその家具に囲まれた初夜を二人に過ごさせることで、 ささやかな復讐を遂げる話。 春風のような異常性癖感が気持ちいい青春小説だった…

太るためには逆に2食が良い、みたいな           徐京植「ディアスポラ紀行」

近代以前は宗教が人の死生観を形成していた。 しかし宗教的認識が崩れた後に登場した科学や自由主義といった近代思想は 人が持つ 死への恐怖/不死への憧憬 に対処することができず、その変わりにナショナリズム、「国民」という個人の生死を超えて続くもの…

安部公房とチーズケーキ  「無関係な死」

小林秀雄の冗談を真に受けて、安部公房はチーズケーキのことをアメリカの高野豆腐だと信じていたらしいけど、 彼の短編なんかを読んでいると確かに、そういう種類の人間が書く文章だよなという気がしてくる。 無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

怒鳴るタイプの指導者は、神が創った訳じゃない 「種の起源」

生物学の端っこに立つ身として、一度は読まないといけないだろうとある種の義務感を感じていたが、上下巻の由緒正しい岩波訳にこれまで尻込みしていた。そしてこの前、光文社の新訳シリーズで見つけたのでジャケ買いした。(パウル・クレー風の鳩の絵) 遺伝…

えらい売れたらしいけど 「帰ってきたヒトラー」

両サイドに均等に悪口を言えば何言ってもいいんじゃないという種類の本だった。 あるいは「冗談なんだからマジメに反論するナヨ」という姿勢。 いろいろと出尽くしてるかなという印象。 もうすぐ映画にもなるっぽい。 表紙に関してはグッドデザインだと思う。…

彼は色恋よりも酒を好んだ                 アブー・ヌワース「アラブ飲酒詩選」

アラブ飲酒詩選、まずタイトルが良い。すごく良い。 アラブ淫種子線という誤変換すら、なんだか許せる感じだ。 1ページ目から朝酒の詩だ。「酒を飲みすぎて心苦しい、だから陽気になるまでもっと飲もう。」というポジティブな姿勢で朝を迎えている。 「牧畜…

同情しなくもない 郭 沫若 「歴史小品」

「妻、君のいい匂いのせいで僕は思索に集中できない」と孟子が泣く話、良かった。 歴史小品 (岩波文庫 赤 26-2)

誰も猪瀬さんを超えてない  ラッセル「ロシア共産主義」

旧ソ連の楽園描写を読むのは楽しい。ドラえもん映画の最初の30分のようだ。 多くの(親露的な)西側知識人と同様、ラッセルも1920年にソ連を訪問した。革命から3年後、人類史上初めての社会主義社会が素晴らしいものとして宣伝されていた時期。 しかし実際の…

理想社会は面白い  カンパネッラ「太陽の都」

ユートピア文学を読むのが好きだ。書かれた場所も時代も違う筈なのに、どれも似た香りがある。 例えば、本筋とは恐らく関係ないであろう部分(男女がどこで寝るとか、食事のルールとか)が共通して詳しく書かれているところとか。旅行人の見聞録という体裁で…